NEKO_SuperNyanko

個人ゲーム開発ブログ

ドラマ THE DAYS 観た

Netflixのドラマ「 THE DAYS  」を観た。

www.netflix.com

 

現在も進行形の事案の福島原発プラント災害(半分以上は人災)を扱っている実話ベース系としては頑張ってる方だけど、やっぱりエンターテインメントではある。

 

ドラマは有名な吉田調書(非公開だった吉田所長の取調をマスコミが非公式リークしたもの)などを積極的に取り入れているので吉田所長目線の組織や政府への批判的な見解が演出に取り入れられている。

 

一方で、肝心のプラント設備全体としての根本的な災害後の対応の不備や、「当時何が起こっていたか」は触れられていなくて技術者目線ではそっちも注力してくれればもっと面白い作品になったのなあと思った。俳優さん達の難しいテーマの演技には素晴らしいと思うのだけど、技術的考証が物足りない。

 

というわけで、本ブログでは福島原発事故で最近になって分かりつつある驚きの調査結果を簡単に振り返ってみたい。

 

ドラマで描かれている人間の葛藤=技術的には時間の無駄でしかなかった

パラメータ不明で暗中模索する無意味さ

ドラマでは史実と同様に津波ディーゼルエンジンが海水で破損し制御室がブラックアウトする。

その後、ドラマでも史実でも訳も分からないまま=パラメータ不明だが「とりあえず注水」をテーマに全員が動いていく。

 

ドラマとしては満点だ。組織の確執、無理難題を言う上層部、海水で再臨界するんじゃないかと揉める中、現場の強行判断は今では美談になってるらしい。

 

しかし、近年の調査結果では、「実際には注水作業のほとんどが他の配管に分散され秒間にしてペットボトル3本分入っていたらマシ」という見解が出てる。要はシミュレーターで逆算すると「入ってない」という前提でパラメータ設定しないと辻褄が合わないらしい。

ドラマではブラックアウトした配電盤を復旧させ「炉心の気圧や水量」の数値に右往左往するのだが、24時間以内に炉(圧力釜の底)が穴が開いて、燃料が地面に落ちた後のパラメータを見ることはあまり重要ではない、というと伝わるだろうか…?

 

ドラマでは線量の警報を気にしながら突入したり、水素爆発で大けがする様が出る(実際に起きた)があの作業のほとんどが意味が無かったのである。ドラマ演出ではすごい感動的なのだけど。

 

冷静になることの重要さ

ドラマの中で、役所広司演じる吉田所長が現場主義一貫で上層部や政府にケツを見せる迫真の演技がある。実際に、無理難題をいう上層部とのミーティングに切れてサングラスをかけてオラつくやり取りはあったらしい。

ただ、この辺もドラマとしては大変面白いが、技術的には「時間の浪費」であった。

コロナ前の2019年頃のレポートになるが、災害から15時間ぐらいあたりで既に炉心融解が始まっており、燃料棒と炉とコンクリートが解けて混ざったデブリと呼ばれるものが施設のコンクリートに落ちてたのでは?という指摘があるらしい。

チェルノブイリでは決死隊が水冷を試みた。

このおかげで汚染された水蒸気が大気に広がり大規模汚染したように、福島原発も注水した水が汚染され蒸発し大気に広がってると海外で指摘され史実でもドラマでも大勢の外国人が国外へ退去した。

日本人でも西日本へ自発的に退去した人は大勢いる。

 

臨界をビビッて政府も保安要員も必死だが、パラメータが信頼できない中では制御できていないのと同じである。必要なのは避難や、避難後のケアだが、そういったのは今もなおボヤっとしている。誰も触れようとしない。この辺はもっとおおいに糾弾されるべきであろう。

 

ドラマでも史実でも、施設で棒立ちになっている人が大勢、難しい顔してPCで腕組みしたり、やることがないのでアクビするシーンがあるが、実際「さっさと逃げさせる」ことが恐らく重要だったのだ。哀れにも適正な避難勧告されなかった住民を含めて。

 

そして、さっさとプラントを埋めるべきであったのだ。パラメータ不明、制御盤破損、そもそも今もなお炉に近づくことも見ることもできない施設は、とっくの昔に制御できていないのだが、まるでモニュメントのように形を残しておくことの合理性は誰も議論しない。当時の中途半端なアプローチが惰性で続いている象徴である。

 

パラメータの信頼性も失われているのに、とにかく水を入れればいいんだ(その根拠は?炉の状態も見えないのに?)で全員が凝り固まってワーワーしている間に、大量の揮発した汚染物質が大気へ広がっていたはずだが、結局、当時の政権は有耶無耶にしてしまった。復興支援でも風評被害の一点張りで当時の具体的な技術的な検証は海外レポートの方が詳しい有様は昔も今も相変わらずである。

 

この辺はドラマでも切り込めていないので残念だった。

まあ、ドラマの主人公的な役所広司あたりの英雄的に語られていた言動が実質、かえって被害を拡大させていた可能性もあるという近年のレポートはあまりに辛辣なので伏せる判断は理解できる。エンターテインメントだしな。

訳も分からず前に進んだは技術的には「悪手」でしかない。

DBが壊れてる時に編集を行えば復旧の可能性が更に下がるのと同じ、PCがショートしてるのに電源オンオフすれば基盤がもっと壊れる可能性が増えるのと同じ、やってはいけない素人レベルの復旧していたという指摘が10年経過して出つつある現実は今後のより客観的ドラマで指摘されて欲しいところである。

技術は感情論では片付かない。冷静なロジックだけが答えだ。そこにどんな感動的な人間ドラマがあろうと技術には無関係である。

 

明確な問題整理の重要さ

事実、近年あがっているレポートでは、炉心融解が早かったおかげで「勝手に」核燃料がコンクリート層へボトっと沈んでいったおかげで被害が少なかっただけ、という見解もあるのだ。

 

膨大な人的リソース、やり取り、ほとんどが浪費で無意味あったらしい事は今後、ひっそりとレポートにまとめられていくのだろう。「奇跡」はこの世に起きないのだ。

 

パラメータ不明、制御不能、マニュアルにも想定されていない。ドラマ内で実は2話あたりで保安要員たちが叫んでる時点で答えは出ていた。「制御不能であり避難するしかない」

これがシンプルな答えである。

 

とっとと撤退を決め、制御不能になったことを認めた上での、事後処理に徹する。

「何とかやってみます」は心の問題でしかない。それがあの事件の本質だろうし、多分それが公に認めるにはあまりに不都合なので今後も有耶無耶にしていくのだろうと思う。

 

事実を素直に認めて、改善していく、ができないとこじれたままグダグダに進む。

今もなお現在進行形のこのモヤモヤしている問題を切り込んだNetflixを賞賛したい。

 

まあ、ずっとこの件は認めないだろうし、有耶無耶で、余計な美談に花咲かせたがるのだろうけどね。技術的には、ロクでもない現在進行形のグズグズしている話。